2010年12月01日

海外から引く手あまたのはずが…JALリストラパイロットの“明暗”

更生手続き中の日本航空(JAL)がいよいよ、乗務員の整理解雇に乗り出した。一部労組は激しく抵抗しているが、情勢は厳しい。このため、多くのパイロットが海外の航空会社へ転職を試みているが、世界トップクラスの技量でも意外な苦戦に陥っている。再就職の航路は“視界良好”とはいいがたい。

 この10月の羽田空港第1旅客ターミナルビル。JALの乗員らで組織する組合が、整理解雇をちらつかせ始めた会社の態度をめぐりホールで集会を開いていた。そのホール近くの小さな会議室の前に、「日本航空パイロットの皆様へ」と書かれた、色鮮やかな幟が並んだ。

 パイロットの派遣会社「ワズインク・インターナショナル」(WASINC、本社・香港)が、JAL向けに開いた転職説明会だ。

「会社から退職を求められて、自分はもういらない人間なんだと悲観される方も多いようです。でも、世界に目を広げれば多くの国でJALのパイロットは求められています」

 WASINCのスティーブン・ターナー会長(52)は話す。例えば中国を代表する航空会社「中国国際航空」の子会社「中国国際貨運航空」は、B747−400型貨物機の機長を募集しているという。

 B747「ジャンボ」はJALがかつて世界最多を保有したことで有名だが、老朽化による燃費の悪さでJALの経営を圧迫した要因の一つとされた。今年度中に全機が退役する予定で、同時にパイロットも不要になる。自動車と違ってパイロットの免許は機種ごとなので、ジャンボの免許しかないパイロットはもはやJALでは仕事がない。

「ただし、世界の貨物専用機は将来もジャンボが主流です。しかも中国では、航空旅客だけでなく航空貨物も爆発的に増えています」(WASINCの高橋佳裕・財務担当役員)

 中国国際貨運航空では、最大80人のJALの機長を受け入れる用意があるという。応募条件は57歳以下、機長としての操縦時間が500時間以上など。2年契約で年収約20万ドル(約1600万円)というから、更生できた場合のJALの機長とあまり変わらない。このほか、中国の中堅航空会社やトルコ航空などが、別機種のパイロットも募集しているという。

 会議室は多い時で数十人のパイロットたちでにぎわった。組合の集会を抜け出してのぞいていくパイロットもいた。WASINC以外のパイロット派遣会社もJALの退職パイロットを求めているといい、業界関係者はこう話す。

「派遣パイロットはJALも使っていて、航空業界ではありふれた存在です。ただ、欧米ではリストラは若い人からなのに、JALは高齢者からなので、派遣パイロットには少ないベテランが大量に流れ込んでいる。このため各社とも活気づいているようです」

 では、次々と転職が成功しているかというと、そうでもない。まず、生活拠点が中国などになり、ここで尻込みする人が多い。

「まだ小学生の子どもがいるので、学校の問題などが心配です」(現役機長)

 また転職が決まる前に、相手の航空会社の入社試験などを受けなければならないが、健康診断で再検査になる人が多いという。

「国の定期チェックをパスしてきた人たちですが、日本より中国は厳しいうえ、慣れない経験で、体調を崩す方が多いようです」
 と先の業界関係者は言う。さらに、機長ではなく、50歳代の副操縦士となると、求人自体がほとんどないのが現実だ。

「募集があっても、45歳以下がほとんど。副操縦士は若い人が求められるため、自国パイロットで間に合うのです」(現役の副操縦士)

 現役組からも「ベテランばかり切っていいのか」と疑問の声が出ている。

 しかし、いつまでも悩んでいる余裕はない。JALと管財人の企業再生支援機構が11月15日、整理解雇に踏み切ることを明らかにしたのだ。

 今年に入って、すでにJALは特別早期退職や希望退職を募集してきた。JALによると、今年度内にグループ全体で約1万6千人の人員削減をするとしていて、3月から8月にかけての特別早期退職には、JAL本体だけで一般職からパイロットや客室乗務員まで計3850人が応募し、9月からの希望退職では同じく1410人が応募した。

 だが、一般職などでは目標人数に達したものの、パイロットでは110人、客室乗務員で90人ほどがまだ不足しているという。

 公的資金によって更生を目指すJALにとって、合理化目標は必ず達成しなければならない。特にこれまで「聖域」として守られてきた乗員の合理化ができるかどうかが、国や金融機関から厳しく問われている。

 機長組合のように、一定の人員調整については理解を示す組合がある一方で、全副操縦士ら約1700人で組織する「日本航空乗員組合」と、一部の客室乗務員856人で組織する「日本航空キャビンクルーユニオン」は整理解雇の撤回を要求している。

 キャビンクルーユニオンの内田妙子執行委員長は、
「頭数ではすでに目標に達しているのに、会社は今になって『稼働数』という新しい用語を持ち出して、乗務に制限がある人を1人分以下に数えるとし、だからまだ足りないと言っています。会社再建の裏側で、私たちの組合をつぶそうという意図を感じます」
 と、不信感を示す。乗員組合の小川洋平副委員長も、
「希望退職と言いながら、一定条件のパイロットには10月と11月に白紙の勤務表を与えて仕事をさせず、退職を事実上強要しています。一方で、副操縦士を残してベテラン機長から先に転職している実態があります。あまりに不公平です」
 と、訴える。しかし、企業再生支援機構は、両組合がストに入る前のスト権を確立しただけで「撤回しない限り、出資はしない」と譲らない。

 まさに、JALがこれまで繰り返してきた不毛な労使対立の再現だ。そもそも今回、行き場のない副操縦士が多く残っているのも、同様に過去の労務対策優先の経営のツケの一面があると指摘する声も出ている。

「なぜJALに多くの高齢の副操縦士がいるかというと、かつてジャンボに乗っていた航空機関士が移行してきたからです」

 あるOBパイロットが解説する。

「コンピューター化が進んでいなかった旧式ジャンボでは、機長や副操縦士のほかに、エンジンなどを担当する航空機関士が必要でした。しかし、その後の機体の進歩で90年代には不要になった。ところが、一部組合が航空機関士のパイロットへの変更を要求、旧経営陣がこれをのんだことで、多くの高齢の副操縦士を生んでしまった」

 因果は巡る。この因果を断ち切って、JALは新生できるのだろうか。

 17日、JALは経営陣の刷新を発表した。若手の登用が進んだものの、稲盛和夫会長、大西賢社長以下、人員削減を進めてきた幹部の多くが残った。



ゴルフレッスン!プロに教えてもらう

posted by パセリ at 20:54| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする